もう正常になれないなら、いっそ泡のように弾けさせてくれよ

AmazonとかSpotifyのおすすめ機能みたいな感じの出会いだったけど、1年好きだった。いや今も好きだ。夜の底が冷えていく中で、この人と出会わなければ良かったと心底思った。

こんなセンチメンタルな気分になったきっかけは一通のライン。
──ホストの担当から「役職なしになった」と送られてきた午後8時、私は悲愴な担当とは裏腹に同僚のライターと安いチューハイを呑みながら仕事の話で盛り上がっていた。

書きたいことが、涙のように溢れてくる。
けれど涙は出てこない


連絡が取れなくなってしまった今、私は彼に何が出来たんだろうか。

社会の欠陥人形たちの孤独はぬぐえない

売掛問題、立ちんぼ問題、デート商法。ホスト業界は何かと今混迷の時期にある。傍から見たらホストという職業は悪者同然だ。しかし「店落ち」と呼ばれる、店舗によるホスト自身の売上の高額な吸い上げや遅刻や欠勤に対するペナルティを考えると、つくづくホストも姫も搾取される側であることを思う

いつか担当と私も、「私たちって孤独だね」と言い合って笑い合える関係になりたかった。孤独であることを愉しみたかった。歌舞伎町に限らず夜の世界は昼の世界に居場所を持てなかった人たちの集積場。いわば健康社会に馴染めなかった不適合者ということになるのだが、私は夜の世界の住民ほど人間らしい人々を見たことがない

昼の世界では週5かつ8時間で働くことが当たり前とされ、常識から逸脱した行為をしようものなら即座に仲間外れだ。けれど今はいわゆる「平気な顔」をして働いている人たちの方が良い意味で異常なのではないかとすら思う。これは私自身が夜職と昼職正社員の両方を経験して思うことだ。

世間的には「夜の仕事をするなんて……」という目が向けられるが、そうではない人生を辿ることができた人たちが社会的に強すぎるだけなのである。発達障害と診断される子どもたちも年々増加傾向にあるという。それだけ今まで「普通」とされて回っていた社会が見直されている、そんな時期にあるのではないか

私の担当も、もちろん私自身も、昼の世界ではいわゆるはぐれ者だ。担当は虐待サバイバーで希死念慮の時代も乗り越え、昼の仕事をする道も頑張って残しつつも馴染めないでいるらしい。環境に適応できないというのは地獄なのに、適応することがこの世界では求められる。

役職というせめてもの「立派さ」を手離さなくなければいけなかった担当は「自分は何もなくなった」と思っているかもしれない。

そんなわけはないというのに。

有刺鉄線みたいな関係で肩を寄せ合うということ

何もできないなりに毎日一生懸命働いて、朝も昼も夜も色んな仕事を掛け持ちしながら担当に愛を伝えてきたつもりだった。そのおかげで私自身はキャリアアップもして収入も増えた。

そのお金で担当と一緒に居ることに必死だったのは束の間、いつのまにか私は社会的な能力もそれなりに手に入れて、おまけに担当の隣にいられて、幸せな気分でいた

けれど担当は、文面から不幸感がこれでもかというほど滲み出ているではないか。

「今日出勤できなくなった」
「また今度詳しいこと話すね」
「しばらく連絡遅くなると思う」

数分経って添えられた文章は私を酔いから醒まさせるのには十分すぎるほどで、そのあと送ったラインは宣言通り、珍しく返ってこなかった(そして今でも帰ってきていない)。

もしかしたら、私が「これだけ頑張れたよ」といつも笑ってるのが、彼にとって呪いになっていたのかもしれなかった。自意識過剰だろうか。彼もナンバー入りホストとして名を連ねている以上、頑張らなければいけない立場であることは間違いない。けれど彼は私のいわば「推し」であり「恋愛的ではないが好きな人」だ。見方が歪んでいる私は好きな人を苦しませるような行為をしてしまったと解釈してしまう。

担当は「昼職で頑張りたかった」と口癖のように言う人だった。だからこそ、昼職という世界で成功していく私の姿は見せてはいけなかったのかもしれない。

ホストに対する推し活は推し活の中でも金銭的に究極体だ。使う額が違うゆえに、かつ感情を大きく上下に揺さぶられて泣くことも多い分、自己犠牲とよく似ている。ホストも姫も高額オーダーを狙って共に身を削って働く。それだけに二人の世界は関係とともに深くなっていく。

私は一番この世で信頼できるはずの母親に「あんたは幸せそうでいいね」と言われたことがある。その瞬間に幸せだったのではもちろんない。むしろ受験勉強に苦しんでいたし、無理やり笑顔を作っていただけだ。

私が笑って何も苦ではない風を装って頑張っていれば、大切な人を傷つけずに済んでいたかもしれない

どうすれば良かったんだろう。私は結局自分が一番可愛い。正常にはなれない。

奪い取られていくだけの世界で生きる

ホストは悪者である、それは半分正しくて半分間違っている。一部のホストは悪質な営業をかけて女性たちを奈落の底に突き落とすし、反対に一部のホストは女性たちを幸せな気分にさせてくれる

けれど、ホストに通っている身である私も、いま何かと騒がれているホストも搾取されているという考えを消せない。連絡がつかなくなった担当にも幸せになってほしい。

夜の世界で生きる人々が孤独を感じないような、そんな息のしやすさに満ちることを願うばかりだ。

ABOUT US
カガリ ユウ
恋愛感情も性的欲求もない珍種のマイノリティホス狂い躁鬱ライター。夜職はガールズバー・いちゃキャバ・セクキャバを経験しそれなりに稼ぐものの、なぜか現在は昼職でデジタルマーケティング企業会社員をしている。本物は派手髪地雷女でSEOオタク。歌舞伎町4年生。