夕方のスーパーに、半額シールが貼られたジットリ油のにじんだイカフライなんかを買いに行くと、レジ横で「ラムネ菓子」が陳列されているのを、最近よく見かける。
子供に与えるとなぜかハイになる、白くて錠剤型の「アレ」である。
Google先生に聞いて調べてみたところ、最近は子供よりも大人がこぞってハイになるために夢中になっており、大変な人気なんだそうだ。
経口接種することで集中力が増大し、気分は爽快、頭の回転もパキパキになるらしい。
下町のスーパーでなんて物騒なものを売るのだろう、と思った。
が、しかし。
この原稿の締め切りが2日後に迫りながらもネタが浮かばず、自宅パソコンのGoogleドキュメント画面が真っ白であるという現状を突如思い出し、そして何よりラムネのもうひとつのドーピング効果に「二日酔い予防・解消」の一文があったことから、まとめて3袋、カゴに投げ入れてしまった。
半額のイカフライは相変わらずジットリしていた。二日酔いで死んでいる時の俺のようだ。
ラムネが二日酔いの時にキマる理由
ところで、なぜラムネが二日酔いに効くのか。そこのところから詳しく調べてみる。
ラムネの主成分はブドウ糖である。ショ糖や果糖ではなく、このブドウ糖というのがどうもミソらしい。ブドウ糖といっても別にブドウの味はしない。
アルコールを摂取すると体内の血糖値が下がる。それによって翌朝の頭痛や怠さを引き起こす(らしい)が、吸収の早いブドウ糖を摂取することにより、血糖値を素早くアゲアゲにすることができるんだそう。
医学的根拠がどこまであるかはわからないし、「プラシーボ効果じゃねえの?」というか、いい大人がこぞってラムネを買い占めている様を見るとどうも製菓会社に踊らされている感じがしないでもない。
と、思ったら。前回の二日酔い対策記事で漢方薬『五苓散』を紹介した時にも名前を出させていただいた、料理研究家・リュウジ氏がラムネとブドウ糖について語っている記事を発見。
俺の大好きなリュウジニキいわく、ブドウ糖の吸収効率がいいラムネはおすすめらしい。
あくまでも集中力についての記事であり、二日酔いには触れていなかったが、ニキが言うことはいつも正しいのである。顔も可愛い。タイプだ。ああ、一緒にラムネをキメてハイになりたい。
ところでラムネ菓子といえば様々なメーカーから発売されているが、やはり一番メジャーなのは「森◯製菓」のものだろう。
森◯というとラムネよりも先に「グ◯コ・森◯事件」を連想してしまうのは俺がおじさんだからだろうか?気になったZ世代のみんなは、事件の詳しい概要をお父さん・お母さんに聞いてみてほしい。
夜職をやっているみんなも、この世代の客との話のネタになるので、しっかり勉強しよう。
ラムネ、本当に効くのか試してみた
森◯製菓株式会社に踊らされているような気がするとはいえ、当サイト・ダブルテラスはこの大都会の星空の下に存在するすべての夜職、すべての酔っ払いの味方である。
二日酔いでミーティングをブッチするような筋金入りの酔いどれライターこと俺は、体を張ってラムネの二日酔い対策効果を検証するため、アマゾンの奥地に足を踏み入れた。
実際に足を踏み入れたのは池袋にある馴染みの飲み屋である。
店主に断って、飲酒中にポリポリとラムネをかじることを許可してもらい、海賊のようにガブガブ酒を飲んだ。
辛いし、この時点で締め切りまであと1日だし、本当は家でほうじ茶でも飲みながら仕事をしていたいのが本音だが、これもあまねく二日酔いに苦しむ酔っ払いたちのためである。取材である。使命感から俺は盃を重ねていった。
ついでにメニューにあったラムネサワーも頼んでみた。焼酎の入ったグラスに、瓶のラムネを自分で注ぐスタイルである(※ちなみにジュースのラムネの主成分はブドウ糖ではないため、二日酔い対策に効果的なのはあくまでラムネ菓子の方である、とのこと)
懐かしい味だった。子供の頃は近所の駄菓子屋でよく飲んだものだ。もちろんその時は焼酎なんか入っていなかったが。
俺は遠い昔に失った何かを、ラムネサワーの立ちのぼる泡の中に見たような気がした。脳内で井上陽水の『少年時代』がリフレインする。少し飲み過ぎたようだ。
そんな遠い目で白い錠剤を無心でキメている俺は、なんというか、他の客からはさぞアウトローな感じに映っていただろうなと思う。通報されなくてよかったです。
シャンパンの泡とラムネの泡は違う色の夢を見せる
そして現在、完全なる二日酔いだ。なぜだ。ブドウ糖をあんなにキメたのに。
頭がガンガンするが、締め切りは目前である。というわけで震える手でこれを書いている。
ラムネを何粒か口に放り込んでみる。目を閉じて咀嚼すると、脳内で再びラムネの気泡が立ち上る音が聞こえる。そういえば寝ている間、子供の頃の夢を観たような気がする。
「今こうしていることの方が夢だったらいいのに」
そんなことを考えながら、ラムネを次々に口に噛み砕いていく。その味は何かに似ていると思っていたが、思い出した。小学生時代の夏休み、友達とプールに行った帰り道によく食べた、水色のアイスだ。
ずっと忘れていたが、俺にだってそういう時期があったのだ。淡いラムネの泡のような思い出。酒や、金や、色恋沙汰がなくても、幸福だった年頃が俺にも確かにあったのだ。
その頃の俺に、今の俺は胸を張れるアゲアゲな大人だろうか?二日酔いや、男とのデートでミーティングをブッチしていていいのだろうか?
瞼の裏に、プールバック片手に、夕暮れの街をサンダルで駆けていく小さな俺が見える。
刹那、脳内にカッと血が巡る感覚があった。
手の震えも、吐き気も、頭痛も、倦怠感も、厭世観も、すべてが一瞬でラムネの泡の向こうに吹き飛んだ。
「これか」と思った。これがラムネ菓子の、ブドウ糖の力か、と。バキバキにキマった。
夜の世界を生きることで見失いかけていた本当の自分。本当になりたかったはずの自分。大人になり、言い訳ばかりが上手になってしまった自分。そういう自分の姿を、ラムネの味は容赦無く炙り出していく。
俺たちが夜毎消費している、現在を美しく彩るための、シャンパンの泡とは全然違う。
ラムネの泡や香りが見せてくれるのは、強烈なまでの己の過去である。そして時として過去は、現在やまだ見ぬ未来よりも強い力を持つ。
なあ見ているか、子供の頃の俺。俺は今最高にかっこいい大人になりたくて、必死に足掻いているよ。
二日酔いでも、締め切りまであと24時間切ってても、俺は泥臭くMacBookをタイピングして、幼いお前の将来の夢である「文章を書く人になる」を、こうして今も追いかけているよ。
おまけ
…と、ここで締めればかっこいいのだが。ブドウ糖効果で酒が抜けてきたら酒が飲みたくなってきた。
この記事も無事仕上がりそうだし、今夜はリュウジニキのレシピから、コンビニで売っている缶のラムネサワーに合いそうなおつまみをチョイスして、夢の続きを見ようかと思う。
もちろん、スーパーでレジ横のラムネ菓子と、半額のイカフライも買ってこよう。
(※ここに書かれているのはすべて筆者の個人的な感想であり、製品の効果・効能を証明するものではありません。お互い飲み過ぎには注意しましょう。最近尿酸値が高めだと医者に怒られました)