【夜職ブックレビュー】漫画『歌舞鬼町陰陽師』

鬼殺隊、という怖い名前の武装した少年・少女の集団が、日本刀を振り回してバッサバッサと人類の敵である「鬼」をなます切りにしていくという内容の漫画・アニメ作品がここ数年、大ヒットしている。

『鬼◯の刃』である。

鬼、と聞くとどちらかというとプレイステーション2用ゲームソフト『鬼◯者』を先に連想してしまう昭和生まれおぢなので見落としていたのだが、今更ながらサブスクでアニメ版を視聴したところ、不覚にも大号泣してしまった。

どちらも名作である。

夜の街に潜む鬼vsホスト陰陽師『歌舞鬼町陰陽師』

https://twitter.com/ogitaka96/status/1765321022113456243?s=61&t=QhUgPIOxs50b3wl51nzeFQ

だが今回ご紹介したいのはまた別のお話。
カトウタカヒロ著、漫画『歌舞鬼町陰陽師』である。

作品の舞台は歌舞”鬼”町一番街。
俺たちのよく知る新宿・歌舞伎町とは似て非なる世界。

歌舞伎町同様、人々が夜毎宴に興じるこの街には、「鬼」と呼ばれる存在が人の姿に化けて紛れている。

そしてあちこちで大酒を喰らい、その酔いが最高潮に達した時鬼の姿を現し、その日の獲物である人間を捕食するのである。

だが鬼同様、鬼を祓(はら)う存在も、この街には潜んでいる。陰陽師だ。
ホストクラブで働く、ドーマン(色黒金髪チャラ系)とセーメイ(色白中性系)のイケメン2人も、そんな陰陽師である。

歌舞鬼町に生息し、酒に酔って人間を捕食しようとする鬼たちを、陰陽師の力で地獄送りにすることで街や人々を日々守っているのだ。

時には不思議な術で、時にはラリアットで、時にはコールやカラオケの合いの手で、次々に鬼を撃退していくという、痛快なコメディ漫画である。
この世界ではバ◯ラカー(的なやつ)すらトランスフォームする式神だ。

鬼の描写も実に絶妙で、いかにも「夜の街にいる嫌なやつ」という感じなのがたまらない。
酔っ払いセクハラ客、虚言で話を盛る客、延々と1人でカラオケを歌い続ける客など、男も女も夜職をやったことがある読者なら「いるー、こういう客いるわー」となること請け合いだ。

そんな鬼(イタい客)たちが次々に地獄送りにされるのだから、こんなに愉快なことはない。いいぞ、もっとやれ!

『鬼』とは何か?wiki先生に聞いてみた

そもそも「鬼」とは何だろうか?
実際に会ったことがないのでわからない。

例えば、エッチの最中は「愛してる」を連呼するくせに終わった後は「まだ終電あるでしょ?帰りなよ」とか言ってくる男がたまにいるが、アレも鬼とか物の怪の類なんだろうか?だとしたらぜひ鬼殺隊になます切りにしてもらった上で陰陽師たちの手で爆砕、チリにしてほしい。

とにかく無学な俺ではよくわからないので、ここは全知全能の神、Wikipedia先生に「鬼」について教えてもらうことにした。

教えてもらった結果、難しくてよくわからなかった。

妖怪だとか、獄卒だとか、怨霊だとか、酔っ払いだとか、実はいい奴説もあって、まあ確かに『泣いた赤鬼』は涙なしでは読めない傑作童話ではある。

その中でもやっぱり、人間に化けて人間を襲って食おうとする、という『歌舞鬼町陰陽師』通りの設定が1番しっくりくる気がする。

同時に、嫉妬や憎しみで人が鬼になる、という説もあって、そちらは何だかシニカルというか、含蓄があるように感じた。

鬼は幽霊とか神様とか妖怪とか、そういうものよりずっと人間に身近な存在である気がするのだ。気がつけば隣にいるやべえ奴、というような。

誰の心にも鬼がいて、陰陽師もいて

夜明けの新宿・歌舞伎町で、泣きながらビニール傘でホストをどつき回している姫を見たことがある。

「鬼の形相」とはまさにあのことで、一体何があったのかは知らないが(大体想像はつくけど)あんな若くて可愛らしいお嬢さんの中にも鬼がいるのだな、と思うことはあの街では決して珍しくない。

そう、誰の心にも鬼がいる。鬼を飼っている。

それは時に衝動や憎悪、何かしらの欲求みたいな形で現れて、俺たちの顔や言動を鬼のように歪ませてしまう。

歌舞伎町という街は、他の街よりもその鬼が顔を出しやすい場所だ。人の欲望・欲求という鬼が、息をしやすい街なのだ。だからしょっちゅう血生臭い事件が起きる。

一見純粋そうな「あなたに愛されたい」と願う心もまた、鬼の姿をしているのだ。

もちろんそれだけ開放感がある街ということでもあり、俺たちのような夜を生きる人間たちにとっては、それが何よりも魅力なのだが。

しかし人間の中には陰陽師もいる。理性や、優しさや、愛情とかいったものだ。

その陰陽師が、何とか鬼を押さえたり、飼い慣らしたりして、俺たちは逸脱することなく社会生活や恋愛というやつを営んでいるのだ。

俺たち人間という不完全な種は、どちらになりきることもできない。
善良そうな人間の中にも鬼がいて、救い難い奴の中にもうっすらは陰陽師がいるのだ。少なくとも、俺はそう信じたい。

そのメタファーとしてなのか、人間の女性に恋をして、陰陽師たちの仲間に加わる善良な鬼の登場人物が作中には登場する(俺の推し⭐︎)

そんな人類への深い祈りと希望を、作品として昇華している漫画…なのかもしれない(?)

と、思ったが。

と、思ったが。忘れていた。

前述の「まだ終電あるでしょ?帰りなよ」みたいな男はまごうことなき純度100%の鬼畜生なので、やはり鬼殺隊になます切りにしてもらった上で、陰陽師たちに爆砕、チリにしてもらった方が人の世のためである。ていうか普通に去勢しろ。

歌舞伎町にはそういう鬼がたくさんいるので、あの街で遊ぶ時は男女問わずぜひ注意してほしい。
そう、鬼は男の姿をしているとは限らない、というのもこの作品からの教えである。

歌舞”鬼”町のように、イケメン陰陽師がいるホスクラがあればいいのだが…。

ABOUT US
元・新宿2丁目ゲイバースタッフ。ゲイ。現在は恋愛・性・LGBTなどを主なテーマにコラムを執筆するフリーライター。惚れっぽく恋愛体質だが、失敗談が多い。趣味は酒を飲むことと読書で、書店員経験あり。読書会や短歌の会を主宰している。最近気になっていることはメンズメイク。