前回のホストのオリジナル顧客獲得テクニックを調査!では、ホストたちは初回に来店した新規客をいかにして指名につなげるのか?について取材しました。
今回は、無事2回目の来店とつなげた顧客に対して、ホストたちはどのようなテクニックで接客をするのか?また、安定して長い期間指名してもらうためにはどういった戦略があるのか?について、潜入取材を行いました。
“売上の高いホストと売上の低いホストの間で、抱えている長期顧客の数に20倍以上もの差がありました”
このことから、売れるホストになるためには、長期顧客の獲得が大切だとわかります。
ホストクラブ初心者の筆者が多額のお金を投じ、合計10店舗、総勢100人オーバーのホストの接客を受け、担当を4人に絞りました。
リピートを重ねた結果、長期顧客に変化する自身の心理とともに、各ホストの作戦の明暗を分けた結果についてお伝えします。
アイドル営業と夜の推し文化
筆者のイメージのホストクラブは「疑似恋愛を真実だと錯覚させるテクニックを駆使し、勘違いをした女性たちの心のうちに入り多額を貢がせる」ものでした。どのような口説き文句や甘い接客が待っているのでしょう。ワクワクしながら飛び込んだホストクラブの世界。
しかし、ふたを開けるとそこにあったのは、アイドル営業と推しの文化だったのです。
(絶妙なトークも甘い接客もまったくないけど)女の子たちは何を求めてホストクラブに来るの?
会いに行けるアイドルを推す、応援するためですよ。
ま、まさか。アイドルを推すオタクたちが推しのCDを何百枚と買うように……。
そうなんです。CDではなくてボトルを入れるんです。
飲めない女の子も多いけど、推しのために高額なお酒をおろすんですよ。
でも、思ったよりそんなにシャンパンコールもないようだし、高額を使う子は少数派なのでは?
シャンパンコールはもう飽きたからと、コールはせずにボトルだけ入れる子もいます。
静かに入れたがるので、マイクで○○入りましたーみたいなのもやらないんです。
店内でどこからともなくシャンパンコールが始まると、ウキウキしてしまう初心者とは大違い。
よそさまのシャンパンコールがあまりにも楽しそうで、ついつい自身もシャンパンを入れてしまう筆者のド素人さが、何か物悲しく感じます。
昔は、女性客たちがホストたちによるコールやマイクパフォーマンスで雰囲気や競争心をあおられ、想定外のお金を一瞬にして溶かしてしまうシーンがメディアでも盛んに流れていました。
しかし現在のホストクラブは、むしろそういったシーンは皆無に等しく、ひっそりと高額が使われることも少なくないようです。
ホストのSNSでは毎日のように「今日はこの(高額)ボトル入れてもらいました~」と自撮りが飛び交っているのに対し、実際のホストクラブの店内ではそのような派手な場面に出くわすこともなく、ギャップを感じていました。
サクラ?とすら思っていましたが、水面下ではしっかり経済は回っていたようです。
店内での余計なあおりがないため周囲に惑わされることなく、お客様個人個人が自分のペースでお気に入りの担当との関係性を育めるのかもしれません。
女の子は初回のたった10分程度の会話で、担当の男の子を決めるの?
はい。
名刺を渡した瞬間、ありグループ、なしグループに選別して机に置くお客様も多いです。
見た目や第一印象でありかなしかを決める傾向が多いですね。
なしに選別されてしまうと、ひとことも話してもらえないって場合もあります。
アイドルの推しは見た目もさながら、物語が重要視されますが、ホストの推し文化は過酷にもルックスや第一印象が決め手になる模様。
送り指名でLINE交換した新人君も、美容について悩んでいる旨を打ち明けてくれました。
生き残るためにはまずルックス。売れたければ見た目に金をかけろというホストたちの言葉は、現場での悔しさから生まれたのかもしれません。
そんな中、筆者も担当の一人に、某人気店のトップホスト君を選んでいます。
スタッフに店で一番やさしい男の子はだれかと相談した結果、決めた担当です。
担当!(名前呼び捨て)
呼び捨て!なんか新鮮
えっ、姫様がたは担当のことなんて呼んでるの?
担当さんか、担当くんかな?
姫様方お若いお嬢さんたちだもんね(おおかた20前半)
年齢関係なく言われる!
顧客の女性たちから、さんづけ・くんづけで呼ばれるホストたち。
たしかに尊い推しに、呼び捨てなどありえないでしょう。
やはり現代のホストはアイドル営業が主流のようです。
店内では女性の競争心や虚栄心をかき立てる過剰なあおりは少ない。
お店では、女性客のペースや距離感を大切にしてくれる。
その分SNS上で、ホスト個人の営業方針として高額ボトルの紹介がなされている。
令和の色恋営業
筆者の思う色恋営業は「普通にお客として飲みに来た女性に惚れてしまったフリをして惚れさせる、わなを仕掛ける営業スタイル」でした。
しかし、そんな接客をしてくるホストなどいません。
みんな普通の男の子。
お酒の場にしては健全と思わせるほどの何気ない会話、もしくしこちらの話をうんうんと一生懸命聞いてくれるスタイルです。
色恋営業ってやつを誰もしてくれないんだけど。
ライターちゃんがいっぱいお金を使えば、色恋営業してもらえるよ。
えっ、こっちが先に多額を使わないといけないの?多額を使わせるために仕掛けてくれるんじゃないの?
違います。お金を使ってくださるお客様にこそ、デートしたりプレゼントあげたりと恋人のように接するんだよ。
では、こちらがお金を使う気配がないとか、ホストくんに恋心持っていないとしたなら
そんなライターちゃんは、楽しく飲もう営業されちゃいますね。
アイドル営業らしく、多額を投じてくれるファンにはきっちりとファンサービスをするけど、そうでないお客様にはそれなりにという令和のホスト。
あてになるかわからない女性に労力をかけるより、お返しという形でピンポイントに労力を使うなら、ホストの精神衛生的労働環境も昔に比べてよくはなっているのかもしれません。
色恋のLINEおくってほしいんですが。
今日もライターと一緒に居られて幸せだったよ❤
会えない時間が寂しいけれど、次会えるまで頑張って我慢するね。
だから次もできるだけ早く会いに来てね。
(心の声)まったくときめかない。だまされようもない。
女性客が応援してくれた熱量の対価として、ホストはさまざまなファンサービスを与える。そのひとつが色恋営業。
その気がない女性に、うそをついたりだましたりして恋を仕掛けることはあまりない。
判断力を鈍らせてオーダーをとる
初回来店から数回までは、シャンパンがリーズナブルな価格でオーダーできるお店が多いようです。
一度、担当2でシャンパンを入れました。シャンパンコールを身近で体験し、その熱気あふれるパフォーマンスや盛り上がりに、初心者はいたく感銘したのです。
A店で、まだ酔いが回っていない時間帯にお得なシャンパンコースをすすめられましたが、しっかりお断りしました。
しかし、あの楽しかったシャンパンコールの記憶は残っていたようです。酔いが回り判断能力が低下したところに、シャンパンをおろしていた模様。
ただ、翌日にはまったく記憶になく、そのことも担当に伝えました。
昨日も相変わらず記憶がない。どうやって帰った?お金も予算以上に使ってる。
ヘルプがタクシーに乗るところまでお送りしましたよ。昨日シャンパン入れたことは覚えてます?
えっ、またシャンパン入れたの?まったく記憶がない。
こんなことが数回続き、やっと気づきました。
酔いが回って、もうお店も閉店というタイミングでシャンパンを入れていることに。
しかし、ふところの兼ね合いもあり、自らシャンパンを入れるとは考えにくいのです。
そうです。お気づきの通りです。
目先の売上のために、顧客が酔って判断力が鈍っているところにシャンパンをすすめる商法だと思われます。
アチャー、毎回酔いすぎて気づくの遅すぎた!
しかしこのようなケースはまれです。
次は、B店での出来事です。
今日の予算はこれだけ。急な用事で出てきたから、お店に寄っただけだから早めに帰るね。
了解!そんな中寄ってくれてありがとう。
2セットの時間が経過し、延長の有無の打診がありました。
うーん、カード切っちゃおうかな。
それはあかんよ。今日は予算内で終わる予定だったでしょ?使いすぎてはダメだよ。
今日はもうこれで帰ろうね☺
えー、そんな風に言われたらまだ飲んでいたくなる。
ダメダメ。また次回ゆっくりしよう。
今日はいつもより酔っていないから帰りも大丈夫だね。
庶民にもやさしい!
決められた予算で遊びたい女性が、酔って誤判断をしないようにしっかり管理してくれるのも、気の知れた担当のいいところ。
お店や担当によって異なりますが、しっかりと意思疎通ができていれば多くのホストはむちゃなことはしないはずです。
こうした心遣いに、安心感を覚え、この担当には長くお世話になるだろうと、そう思えた瞬間でした。
目先の売上に走るホストはゼロではないので見極めが必要。
安心感・信頼感を与えてくれるまっとうな商売スタイルのホストが結果的に長期顧客をつかむ。
まとめ
ホストの長期顧客獲得のポイントは大きくわけて2つあると考えます。
・推しとして応援されるためのアイドル営業
・安心・信頼を軸にした健全営業
たしかに、長期顧客より短期集中顧客を追うホストも存在することは否めません。
しかし、顧客の立場を考えない接客だと、顧客は不信感を募らせ時期を待たず離れていきます。また、女性ならではの口コミ力は侮れないため、リスクはつきものです。
長期のお付き合いを見据えて、その日その日に誠実な接客をすれば、顧客から友人知人の紹介があったり、いざというとき助けになったりと、思わぬメリットがある可能性は計り知れないでしょう。
冒頭で紹介した京都大学経営管理大学院 佐野光さんの寄稿の記事にもありますが、長期顧客が高額顧客に転換するという結果も興味深いものです。
ホストクラブ初心者は危険な橋を渡りたくないため、安心して楽しめるホストやお店を選びます。
沼落ちするか否か?それはひとえに、ホストが誠実な態度で顧客を人として尊べるか否かにもかかってくるのではないでしょうか。