【夜職ブックレビュー】『I♡歌舞伎町』

過去2回書いたブックレビューの記事が、たいへん好評である。
ということで、編集部から正式にシリーズ化してもらった。
この調子でギャラもガンガン上げてほしいが、その辺はどうも濁されている。

さて、記念すべき第3回。
今回取り上げるのは、BL(ボーイズラブ)である。おお、ゲイライターの面目躍如ではないか。自分で選んだんだけど。

ちなみに大好評のこちらのブックレビュー。いつも歌舞伎町近くにある、吹き溜まりのような喫茶店で執筆されている。コーヒーが安くて、いくら長居しても何も言われない。
今まさに左隣の席にはロリータファッションを身にまとったおじさんが座っていて、右隣の2人組の間ではマルチ商法の勧誘が行われている。

誰もが堂々とありたい自分であれる街。何者にでもなれる自由の街。それが新宿。それが歌舞伎町。

BLはいつだって美しい『I♡歌舞伎町』

BL漫画を買うときは、新宿・紀伊國屋書店に限る。

この店のBL売り場には、男性客が多い(気がする)。よその書店のBL売り場と違い、彼らが堂々と、女性客や店員の目を気にせずに、えちえちなBLを物色しているのがとてもいい。これも新宿という街の懐の深さだろう。

BLに登場する男はみんな美しい。だからBLの棚はどの書店でも、いっとう華やかな場所だと俺は思う。
煌びやかな表紙が光を反射して、まるでネオンを反射するシャンパンの泡のようだ。

地元の書店でBLを買うなんてとんでもない!誰が見ていることやら!ゲイだってバレちゃう!という、田舎特有の閉鎖的環境で思春期を過ごした経験が、余計にそう思わせるのかもしれない。

先日、そんな煌びやかなBL売り場で、ひときわ光を放っている1冊を俺は手に取った。
派手な表紙や、絵も好みだったが、タイトルが良かった。
コウキ。著『I♡歌舞伎町』
外国人観光客がドンキで買っていくお土産Tシャツみたいで、すごくいい。

ホストで成功することを夢見て、田舎から歌舞伎町へとやってきた若者、令(レイ)。

枕営業が原因でホスクラを追われ、ラブホ街のホテルマンとして働き始めるも、ホテルのオーナーが突然腹上死。路頭に迷うレイだったが、バイセクシャルの同僚、和(ニキ)の発案でホスクラ経営を始めることに。
しかしニキの目的はお気に入りのレイを歌舞伎町に閉じ込めておくことで、レイは店の借金の連帯保証人になってしまう。

謝金返済のため再びホストとして働き始めるレイと、オーナーになったニキ。ホストとして奮闘するだけではなく、同時に心と体の関係も重ねていく2人の、明るい物語だ。
いい男がたくさん出てくるちょっとエッチなBLとしても楽しめるし、1人のホストの成長譚としても、読み応えがある。

ホスクラのシーンも、2人のラブシーンも、全編通して歌舞伎町特有の煌びやかさを放っている。ギラギラで、毒々しくて、嘘ばっかりで、だけど儚くて美しい。

シャンパンのような男たち

シャンパンという酒をうまいと思って飲んだことはない。
うまいとは思わないけれど、美しいとは思う。それは俺が元水商売人だからだろうか。

ホストに限らず、夜職の世界でやたらとシャンパンが重宝されるのは、値段が高いからという理由だけではないだろう。
立ち上る気泡や、夜のネオンを反射する美しさと儚さが、着飾って夜の世界を生き抜く水商売人たちとリンクするからだ。

人間の若さや美貌は有限である。
もちろん歳を重ねたことによって得られる魅力や個性や味というものもあるだろうが、歌舞伎町で求められるようなわかりやすい美しさ、という意味ではやはり限度はある。
コルクを抜いた瞬間から気が抜けていく、シャンパンのボトルと同じだ。

決して取り返しがつかないもの。いつか必ずなくなってしまうもの。
だからこそ客はその若さや美しさに金を払うし、その象徴たる、馬鹿みたいな値段のシャンパンを
卸すのではないか。

ホストたちのそんな激しくも儚い輝きを、スピード感のある展開や、ちょっと情報過多なくらいの描写、そして要所要所で挟まれる美しい濡れ場が表現している。
性欲だって、いつかは失うものだ。だったらできる間に、愛する人と裸で抱き合っておきたい。

この本の中で、俺が1番好きなシーンがある。

万札が舞い散るシャンパンタワーの前で、ニキがコルクの空いたシャンパンのボトルを片手に持って、頭上に掲げている。
傾いたボトルからはジャバジャバと中身が溢れているが、彼は少しも気にしていない。最高に美しい顔でこっちを見て、笑っているニキ。

電車の中で初めてこの本を読んだ時、俺はうっとりとそのページを、何分間も眺めていた。

シャンパンが1番美しく輝くのは、お行儀よく誰かの口に運ばれる時ではなく、こうして派手に消費される瞬間だ。
ゲイバーで働いていた頃、金持ちの客が入れるだけ入れて飲まずに置いて帰ったシャンパンを、シンクにドバドバ捨てる瞬間、とても綺麗だなと思ったのを思い出した。
それは水商売人だけが持つ美しさと、よく似ている。

「性の消費」というものが問題視されている時代ではある。それもわかる。若者たちに対して、無為に若さや性を安売りしないで欲しいという思いもある。
だが、シンクや床にぶちまけられるシャンパンのように、派手に消費することでしか見えない夢幻もこの世界には存在するし、それに魅入られる者が多いから、夜の世界はなくならないのだろう。

床にぶちまけられるシャンパンのようでありたい

当サイト・ダブルテラスは夜職情報に特化しながらも、実に健全なサイトでもある。

男性同士の恋愛を扱い、濡れ場も少なくないこの漫画を取り上げることに、ためらいもあった。編集部に突っぱねられる可能性もあったし、もっと無難な選書なら、いくらでもできる。
だが作中、かつて枕営業をしていたことを話すレイに、ニキが放った「それ三流でもできるからつまんないでしょ」というセリフに、俺は突き動かされた。

俺はいつも自分を三流記者だと自虐っているが(本心じゃないけど)、本当は一流になりたいという熱が心の奥底にある。
客にガチ恋をして病んで退職、という水商売人としては三流以下だった俺だが、物書きとしては一流を目指せるかもしれない。俺の中にも、床にぶちまけられるシャンパンのような強烈な輝きが、まだ残っているはずだ。そう信じたい。
その輝きを見つけた時、俺は初めてシャンパンをうまいと思えるのかもしれない。

個人的には仕事に迷った時、怖くて動けなくなりそうな時、読み返したい1冊だ。
もちろん、純粋にいい男たちが愛し合うBLが読みたい、そんな時にも。
首のラインとか、肩幅とか、骨格の描き方が絶妙にエロいんだよなあ…。ちなみに俺は付き合うならニキで、抱かれるならレイです。

滑稽な愛を叫ばずにいられない街、それが歌舞伎町

さて、ここまで書いてひと息ついているが、隣のロリータおじさんも、マルチ商法2人組も、いつの間にかいなくなっていた。代わりに地雷ファッションの女の子と、髪を真っ赤に染めたロッカー風の若い男性が座っている。

ああ、いかにも歌舞伎町だ。誰もがありたい自分でいていい街。
「本当の自分」かどうかは関係ない。「こうありたい」という自分でいていいのが歌舞伎町だ。地雷でも、ロッカーでも、ロリータでも、ホストでも、物書きでも。男同士が堂々と愛し合うこともできるし、BLだって物色する。マルチはどうかと思うが。

I♡歌舞伎町。

馬鹿みたいだ。大抵のものがカネに換金されるこの街で「愛」を口にすることが、どれほど滑稽なことか。

それでも俺は言わずにいられない。I♡歌舞伎町。

帰りはトー横でも通って帰ろうかなと思う。
シャンパンは見られないだろうが、トー横キッズたちがそこらじゅうでストロングゼロを撒き散らして、キラキラさせているだろうから。

ABOUT US
元・新宿2丁目ゲイバースタッフ。ゲイ。現在は恋愛・性・LGBTなどを主なテーマにコラムを執筆するフリーライター。惚れっぽく恋愛体質だが、失敗談が多い。趣味は酒を飲むことと読書で、書店員経験あり。読書会や短歌の会を主宰している。最近気になっていることはメンズメイク。