【コラム】夜の街における男のセクハラ被害、どう考える?

ことの真偽はわからないが、ジャニーズ事務所の故・ジャニー喜多川氏による所属アイドル達への性的虐待がネット上で話題になっている。元ジャニーズJr.だったというひとりの男性の暴露に始まったこの一連の騒動について、散々ジャニーズコンテンツを享受してきた隠れ(ていたかはわからないが)ジャニオタゲイである俺が深く言及する気はないし、その権利もない気がする。

しかしこの騒動によって日本における男性への性被害やセクハラの姿が、わかりやすく現実味を帯びて可視化されたようには思う。

あること自体はみんな本当はずっと頭のどこかで知っていたけれど、当事者の声や体験談が女性のそれに比べて圧倒的に少なく、どこかフィクションめいたあやふやさの中にあったそれは、しかし現実のものだ。

夜の世界においても、それは決して例外ではない。キャバ嬢をはじめ女性ナイトワーカー達にとっても深刻な問題であることは重々承知だが、今回は男性のセクハラ被害に的を絞って考えたい。

「男なんだからいい」は無い

キャバクラで男性客がキャバ嬢のドレスから伸びる太ももを撫で回したり、胸を揉んだりすれば即退場、あるいは豚箱行きでもおかしくないだろう。

しかし例えば酔った女性客がホストの股間をズボンの上から鷲掴みにしたり、無理矢理キスをしたり、あるいはバシバシ体を叩いたりしても(もちろん本来はNGだろうが)なんとなく笑って許されてしまうような空気感が今も夜の街には存在しているように思う。それぐらい男性へのセクハラに対する意識はユルユルだ。夜の街や酒の席では特に。

女性が男性から受けてきた性被害の歴史をかんがみれば瑣末なことだと言えなくもないのかもしれないが、「男の方が女より肉体的に強く大きい。だから男は女を恐れないし、よって何をしてもいい」という無意識の刷り込みがそれを許しているのだろうか。もちろん異性間だけではなく、男性から男性へのセクハラや性被害も存在するわけだが。

俺自身(男性からも女性からも)満員電車で尻や股間を触られたことが何度かあるし、銭湯や道端で露出狂に遭遇したこともある。押し倒されて強姦まがいのことをされそうになったこともある。

確かに不快だった。しかしこの記事を書いている今この時まで、自分ですらそのことをずっと忘れていたし、その時だって誰かに助けを求めたり警察に訴えることもなく、なんとなくその場をやり過ごしただけだ。男性の場合は被害者側すら被害者であるという意識が薄いのも問題なのかも知れないと内省する。

すり減らされていく男たちへ

男性も女性も客として飲みにくる新宿2丁目のいわゆるミックスバーで働いていた時、男女問わず気前のいい客たちによく「腹筋見せてくれたらチップあげるよ」とか「パンツのゴム見せてよボトル入れるから」とか、そういうことを言われたものだ。もちろん言葉だけではなく、実際のお触りなどもあった。腹筋なんかないっつーの。

他の従業員がどう思ったかは知らないが、俺個人としてはシンプルに「うわキモ」と思ったし、金目当てで働いていたわけでもなかった俺にそこまでする義理はない気もしたが、でもここで断れば空気が悪くなるし店にも迷惑だろうと思って言われるがままされるがままにしていた。

水商売という職業上仕方のないノリは存在するとも思うし、そういう夜の世界だからこそ生きやすいと思うことも多い。夜の街にはそんな人間も少なくないだろう。

客との関係性次第では多少のスキンシップも構わないとも俺は思う。それくらいで金がもらえるのなら安いものだ、という野心溢れる考え方も個人的には嫌いではない。

しかしあまりに過剰なものになると、先述の俺のように「空気を読んで」それに耐えてしまう男性もいる。

どんなに派手に着飾っていても、夜の街には昼の世界ではどうしても生きられなかったような、繊細で傷つきやすい水商売人も多い。そんな男性が、今日も自分をすり減らしているかも知れない。あるホストにとっては全然大丈夫でも、同じテーブルには全然大丈夫じゃない同僚が誰かいるかも知れない。

その傷つきやすさを「ホストとしての素養や適正に欠けている、向いていない」などという言葉で片付けてしまうのは間違っている。俺の好きな夜の世界とは、強い人も繊細な人も、個性あふれる様々な人々がネオンの下で複雑な模様を織りなすからこそ美しいものだと信じているから。

もちろん、水商売が決して生優しい綺麗事ばかりで片付けられる、甘い仕事ではないということを俺も身をもって知っている。しかし、時代は変わる。

昼も夜も関係なく、どのみちこれから男性の性に関するコンプライアンスはどんどん確立されたものになっていくだろう。それも加速度的に。冒頭で述べたジャニーズの疑惑もその一端に過ぎない。

これからの時代の夜の街を生き抜く男性たちには、かつて女性たちが身につけてきたそういった意識を同じく身につけて、アップデートしていく必要が出てくるはずだ。

月並みな言葉で恐縮だが、「NO」と言える勇気を持ってほしい。

ただでさえ水商売人というのは、扱いが不当に軽んじられることが多いのだから。

夢を売るということ

夜の世界を生きる男性へのセクハラについて考え直すべきは、男性当事者ばかりではない。当然、彼らに金を払う客の女性たちも同様だ。

お客様は神様だなんて考えはすでに昭和の遺産であるし、男性が女性に触れるのはアウトだが逆はなんとなく許されるという時代も、間違いなく終わる。

男性だってむやみに体をこねくり回されれば気味が悪いし、叩かれれば痛いと感じる。それを忘れてはいけない。もちろん、そんなことをするのは一部の女性客だけだということもわかってはいるが。

水商売は夢を売る仕事である。夢は敬意を払うからこそ夢なのだ。そして生身の人間に本当に美しい夢を見せることができるのは、生身の人間だけである。

例えば同じく夢を売る商売に何があるかといえばディズニーランドがある。

こんなことを言ったら何か大きな存在に消されたりしそうで怖いが、ディズニーランドのミッキーの中に生身の人間が入っていることを俺たちは知っている。知った上でそれでも彼らを本物のミッキーとして夢をみる。

だからディズニーランドでいきなりミッキーの着ぐるみを脱がせて中の人に話しかけるやつはいないし、いたとしたらイカれている。

それはその中の人やディズニー自体への明らかなルール違反であり、侮辱であり、そんなことをすればどうなるかといえばそれこそ豚箱行きで、もうミッキーは二度とそいつに夢を売ってはくれないだろう。

夜の街で夢を売る男性達への過剰なセクハラは、つまりそれと同じことではないだろうか?

何も難しい話ではない。好きな相手には敬意を持って接する、それは当たり前のことだ。そしてあらゆる人間関係において敬意を持つということは、適切な距離を保つということでもある。

それができない人間に彼らが夢を売る義理が、果たしてあると言えるだろうか?「男なら・ホストならいい」は無いのだ。そこにいるのは生身の人間だ。

昔の日本では女性にセクハラをする男性が「いいじゃないか、減るもんじゃなし」などという常套句を弄していたと聞くが、男性でも女性でも減るのである。目に見えないけれどとても大切な何かが、減るのである。

ABOUT US
元・新宿2丁目ゲイバースタッフ。ゲイ。現在は恋愛・性・LGBTなどを主なテーマにコラムを執筆するフリーライター。惚れっぽく恋愛体質だが、失敗談が多い。趣味は酒を飲むことと読書で、書店員経験あり。読書会や短歌の会を主宰している。最近気になっていることはメンズメイク。